はじめに愛があった
愛は自分が愛だとは知らなかった
話す相手もいないので
魚の泳ぐフリをまねたり
タンポポのワタゲを飛ばしたりしていた
朝が1000万回
夜が1000万と1回きた夜明けに
太陽の光を浴びた石ころたちが人になった
人は賢かった
オナカがすけば木に登って果物を取ったし
寒さをしのぐために獣の毛皮をこしらえたり
火を操る事もできた
もはや世界は人に従っていた
そんな中でも
愛は人から好かれた
なにせ話す相手もいなかったのだから
弾む足取りで
愛は人に近づき
珍しいものだと
人は愛に近づいた
お互いに惹かれるものがあったからである
そしてだんだんと愛が自分自身を知り始めた頃
人の中の一人が愛を自分だけのものにしようとした
それを見た人々はこれはたまらぬと
我が先にと愛を奪い始めた
愛は自分の目の前で起きていることがわからなかったが
そんなことにおかまいなく人々は殺しあった
その渦は嵐のようにたちどころに広まり
ハツカネズミのように繁殖した
そしてそれが戦争となった
ついに
最後の一人がよこたわり息絶えたときはじめて
愛は全てをさとり
自分自身を知った
愛は赤く熟れたりんごの実だった
愛は海をスイスイと泳ぐ魚だった
愛は丘を駆け抜けるやさしい風だった
愛はサラサラと寄せて引き返す波の音だった
愛は優しい金木犀の香りだった
愛はユラユラと揺れる蝋燭の火だった
愛は今にも壊れそうなガラス細工だった
愛は
愛は愛を奪い合う人の心だった
愛は泣いた
泣き続けた
大きな声で泣きつづけた
その声は暗い宇宙のそこに響き
光たちも立ち止まるほどだった
朝が1000万回
夜が1000万と1回きた夜明けに
愛はピクリとも動かなくなった
そして
何も無くなった